日本財団 図書館


 

る。西洋音楽を今日のような形にする基礎をつくったのは教皇グレゴリウスで、修道院で毎日ミサの時に歌われる聖歌がグレゴリオ聖歌となり、音楽の基本として後世に普及していったわけである。
現在グレゴリオ聖歌でもっとも有名なフランスのジャンピエール・ド・ソレム修道院も、 やはりモンテカッシーノ修道院の創立者聖人ベネディクトの弟子によって創立されたものである。筆者はかってローマのイグナチヲ教会で、サンピエトロ大聖堂のオルガニスト(神父)の演奏を聴いたことがある。小さなマイクロカセットに録音した音楽はよい音ではないが、再び聴くと、プロのCDやレコードと比較するとはるかに感動するのはなぜなのかと時々考える。多分、この神父は、プロの音楽家のように世間に対する名声とか、CDの売り上げは一切関心がなく、ただオルガン演奏を神に捧げる祈りとして演奏しているためではないかと思う。
音楽療法の指導者はこういうよい環境で、豊かな感性を磨いてほしいと考える。
生と死についての思索は絵画にも見られる。写真2はピーター・ブリューゲルの「死の勝利」の一部で、人間の終末の姿を暗示しているように思え、われわれにいつかは必ず訪れる死について深く考えさせられるものと考えている。
聖人ベネディクトの残した言葉、「日々死を眼前に思い浮かべながら暮らすこと」は、われわれがこの言葉を常に認識していれば、癌の告知はいまよりも容易になると考える。
パスカルはキリスト教弁証法という本を書く予定でメモをとり始めたときに、慢性の神経疾患になり、次第に衰弱していく間に書いたメモを後世の人が番号を付けて出版したのがパンセである。表2に示すごとく、私はこのパンセの中の347番の文章12)に興味を持った。わたしはこの中の“Un roseau”を芦と訳すことに違和感を感じ、辞書で調べたところ、「弱いもの」という意味もあることがわかり、これは末期状態にある患者とそれに関わる医者の関係に似ていると考えた。患者は治ることのできない“Un roSeau”(弱いもの)であり、医者は治すことのできない“Un roseau”(弱いもの)である。しかし、患者は人生の最後をこの医者にあって心が癒されたと“Pensees”(考え)、医者は自分はこの患者の命を救うことはできなかったが、患者の心の癒しに役立つことができたと“Pensees”(考え)れば、それがPastoral Careの精神であると考えている。

038-1.gif

写真2 ピーター・ブリューゲル「死の勝利」の一部

 

表2 パスカルのパンセより347番

038-2.gif

 

考察
死の準備教育はアートの部分が多く、落胆している患者の癒しは医師と患者の心の触れ合いが最も重要であると痛感した。
告知については、日本人の特殊性として、家族が告知しないでほしいということが時たまあるが、重兼8)は欧米人の合理主義に対し、東洋人

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION